夜明けのコーヒーには 早すぎる
 「あっ―」
 文字通り、あっと言う間の出来事だった。ぼくはユラさんに続いて台所に入る。
 「後でぼくがやりますが―」
 「いえ、やらせて下さい」
 ユラさんはぼくに背中を向け、食器を洗い出してしまう。
 やれやれ。
 ぼくは肩を竦めた。
 「では、お願いしますね」
 ぼくはユラさんに洗いものを任せ、お茶を淹れた。
 やはり、食後は熱いお茶に限るね。何だか、ほっと落ち着ける。
 ぼくは三色団子を出して、リビングへと持って行く。
 テーブルの真ん中に置くと、お茶を啜りながら、ユラさんを待った。
 少しして、台所から戻って来たユラさんに、「お茶でもどうですか?」とお茶と団子を勧める。
 ユラさんは少し逡巡するも、頷いて腰を下ろした。
 三色団子を食べながら、恍惚とした表情をしている。
 どうやら、ぼくと同じく甘い物に眼がないらしい。
 「そういえば―」ぼくはユラさんを窺いながら、話を切り出す。 「昨夜は、何故あんな場所に?」
 「いや、それが―」ユラさんは申し訳なさそうに、頭を掻きかき。「情けないことに、良く覚えてないんです」
 「成る程」
 ぼくは心の中で、そっと頷く。
 百円玉を追い掛けて眠ったという仮説は、ぼくの胸に仕舞っておくことにしよう。
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