夜明けのコーヒーには 早すぎる
 「ユラさんは良く呑まれるのですか?」
 「はい」ユラさんは頷く。「ですが、酔い潰れたのは初めてです」
 ぼくはゆっくりと頷くと、お茶を啜って喉を潤した。
 「ぼくは良く『ロンド』で呑むのですが、貴方は初めてだったのではありませんか?」
 「そうですが―」ユラさんは、ぼくの質問の意図が測り兼ねるのか、訝(いぶか)しげな表情になる。「それが何か?」
 「いえ、大したことでは無いのですが―」
 と言ったところで、ぼくの携帯電話が鳴った。
 「少し待って下さいね」
 ぼくはユラさんにそう断って、携帯電話を開く。
 液晶画面には、ヒロコの写真が映っていた。
 ぼくが電話に出ると、「カドちゃん、今夜呑も!」開口一番、ヒロコが言った。
 「いいですよ」
 「じゃあ、夕方に『ロンド』で」
 ヒロコは電話を切った。
 相変わらず唐突だ。
 でも、そこが良い。
 「カドカワさん」
 「どうしました?」
 ぼくは携帯電話を仕舞いながら、ユラさんに向き直る。
 「お世話になりました。後日、改めてお礼に来ます」
 そう言って立ち上がったユラさんに、「今夜、一緒に呑みませんか?」とぼくは言った。
 「えっ!」ユラさんは、眉間に皺を寄せる。「今の人と、呑むんじゃないんですか?」
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