夜明けのコーヒーには 早すぎる
 「どうぞ座って下さい」
 ぼくがそう言うと、「それじゃあ、お言葉に甘えて」ユラさんはぼくの隣りに腰を下ろし、梅酒ロックを注文した。
 「乾杯」
 ユラさんを交えて、ニ度目の乾杯をする。
 「ユラさんって、もしかして妹いる?」
 ヒロコは言った。
 丁度、ぼくが気になっていた事だ。
 「ええ」ユラさんはグラスを傾けながら頷く。「ユリっていいます」
 「おっ」ヒロコは破顔する。「やっぱりだ」
 「そうですか、貴方はユリさんの姉でしたか」
 ぼくは微笑みながら頷く。
 予想的中である。
 「はい」ユラさんは頷き、ぼくに向き直る。「ユリがお世話になった方とは気付かずに、昨夜と今日は大変失礼しました」
 「気にしないで下さい。気付かなかったのは、お互い様ですから」
 ぼくは日本酒を傾けた。
 面と向かって言われると、気恥ずかしい。
 「ん?昨夜、わたしがいない間に何があったの?」
 ヒロコが興味津々といった眼をして、身を乗り出してくる。
 「実は―」
 ぼくが話すかどうか迷っている内に、ユラさんが話し出してしまった。
 ユラさんの説明を聞き終えたヒロコは、破顔一笑、「大変だったね」とぼくに労(ねぎら)いの言葉を掛けた。
 「お安いご用ですよ」
 ぼくは破顔して、ヒロコに言葉を返す。
< 73 / 200 >

この作品をシェア

pagetop