夜明けのコーヒーには 早すぎる
 「そうです。結婚です。わたしは自分のセクシュアリティを自覚していますから、将来的に結婚や出産が出来ないことは良く解っていますし、それで満足しています。ですが―」ユラさんは言い淀むと、梅酒を呷る。「わたしは、今二十四歳です。ですから、まだそんなにうるさく言われないのですが、時々両親の言葉の裏にその意を感じます。昨夜は、母親に好い人いないかと聞かれました。それで少し嫌な気分になって、酔い潰れてしまったのです」
 ユラさんは話し終え、大きな溜め息を吐いた。
 「結婚すればいいじゃん」
 ヒロコが、さも当然といった感じで言った。
 「なっ―」
 ぼくは余りのことに、開いた口が塞がらない。
 スイセイ氏もユラさんも、ぼくと同じ様な反応でヒロコを見やった。
 その視線に気付いたヒロコは、「ん?何、驚いてんの?」と首を傾げる。
 「何もなにも無いですよ」ぼくは思わず、言語が乱れる。「ユラさんの話、聞いたでしょう?」
 「うん。聞いた。だから、結婚すれば良いじゃない。スイセイさんと」
 スイセイ氏と?それはつまり―
 「偽装結婚、ですか?」
 「そう。こんなベストカップルいないよ。正に相思相愛。ヒューヒュー」
 ヒロコは、ナハハハハッと笑いながら二人を囃した。
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