夜明けのコーヒーには 早すぎる

　「いやっ、しかしですね」唖然としていたスイセイ氏が、漸(ようや)く話し出す。「ぼくとユラくんは、教師と教え子でありますから」
　「いえ、先生！わたしと結婚しましょう！」ユラさんは、狼狽えるスイセイ氏の手を握る。「何で、もっと早く気付かなかったんだろう！わたしと先生なら、ばっちりじゃない」
　「し、しかしユラくん、やはり御両親に理解してもらった方がいいのでは？」
　「それはそうですけど―」ユラさんは拗ねた様に、口を尖らせる。「でも、それが無理なことは先生も知ってますよね？」
　「確かに、君の御両親もヘテロセクシュアル以外のセクシュアリティを、病気だと思ってるからね」
　スイセイ氏は顔を顰(しか)めて言った。言い方に、自分の両親への批判も読み取れる。
　この二人、似た者同士らしい。
　ヒロコの提案は、もしかしたら二人を、古き固定概念から救うかも知れないな。
　ぼくは頷き、ヒロコに微笑み掛ける。
　それに気付いたヒロコは、「どうしたの？カドちゃん」とぼくに、微笑み返してくれた。
　「いえ、ヒロコは凄いなと思いまして、ね」
　「煽(おだ)てても、何も出ないよ」
　「良いですよ。ぼくは好きで、煽(おだ)てているのですから」
　ぼくとヒロコは、互いのお猪口とジョッキを軽く当てる。