夜明けのコーヒーには 早すぎる
 カンッ
 という小気味良い音が、ぼくとヒロコの間に響いた。
 「ねっ、ダーリン。結婚しようよ!」
 ユラさんは、まだスイセイ氏に迫っている。
 傍から見たら、恩師に猛烈な求愛をしている元教え子にしか見えない。
 だが、実際には互いのセクシュアリティを隠す為の苦肉の策である。
 ―筈なのだが、ユラさんを見ていると、どうやらスイセイ氏をからかって楽しんでいる様に見える。
 この二人、似た者同士の親友といった関係になりつつあるようだ。
 ぼくがそう思いながら二人を見ていると、遂にスイセイ氏が折れた。
 「わ、わかった。ユラくんには負けたよ。それに、正直助かる。有り難う」
 「お互い様だよ。ダーリン」
 「よし。では、スイセイさんとユラさんの婚約に―」
 ヒロコがジョッキを掲げる。
 「乾杯!」
 ぼく達は、互いの容器を軽く当て合った。
 それからは、四人でわいわいと呑みつつ、世間話に華を咲かせる。
 そのままヒロコの家で二次会となり、スイセイ氏とユラさんは終電に合わせて帰っていった。
 何はともあれ、スイセイ氏とユラさんの問題が解決して良かった。
 尤(もっと)も、セクシュアリティの解放を目指す人達には批判を買うかも知れないが、ね。
 まあ、それも人それぞれである。
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