夜明けのコーヒーには 早すぎる
 「ユリさんのご友人ですか」ぼくもつられて、ひそひそ声になる。「その友人がどうしたのですか?」
 「実はその友人から、恋愛相談を受けまして―」
 「恋愛相談、ですか」
 「はい。そうです。わたしを頼ってくれたのは嬉しいのですが、如何せんわたしには恋愛経験が皆無であります。ですから、ほとほと困り果てていました。しかし、どうでしょう!今日、街中でカドカワさんと出会う僥倖に恵まれたのです。これはもう、天の采配とばかりに、声を掛けさせて頂きました」
 ユリさんは、何だか歌舞伎がかった調子でいい終えると、ミルクティーを啜った。
 何だか、前とは別人の様だ。
 いや、前回が切羽詰まった状況だっただけで、これが本来の彼女なのかも知れない。
 ぼくは、しみじみとそう思った。
 「ぼくも―」ぼくは頭を掻きかき。「年相応に恋愛経験がある方ではないですが、それで良ければ微力を尽くしましょう」
 「ご謙遜を―」
 ホホホッとユリさんは笑うと、急に真顔になり、「ありがとうございます。助かります」と頭を下げた。
 「い、いえ。いいんですよ」
 ぼくは少し―いや、かなり圧倒されてしまう。
 彼女はもしかしたら、ヒロコよりも強者なのかも知れない。
< 85 / 200 >

この作品をシェア

pagetop