夜明けのコーヒーには 早すぎる
 「先ずは無難に、バツくんがかなりの奥手だということにしましょうか」
 「奥手、ですか」
 「そう。もしそうなら、マルさんを大事に思う余りにってことで、まだ望みがあります」
 「成る程。でも、それはマルさんの立場から言えば、ただの言い訳ですね」
 ユリさんは、きっぱりと言い切った。
 中々、豪胆なお方だ。
 「確かにそうですが、何かを望んでいるのなら、口に出して伝えるべきです。そうしないと、伝わらない人もいるのですから」
 「そうですよね」ユリさんは、眼を細めてぼくを見やる。「女性だから、男性に気付いて欲しいっていうのは、少し我儘な気がします」
 「しかし、まあ―」ぼくは、頬を掻きかき。「その駆け引きが、恋愛の楽しみだという人が多いですからね。世の中には」
 「確かに」ユリさんは、うんうんと頷く。「恋人への不平不満を洩らしながらも、楽しそうな人が多いですね」
 「ぼくなんかは、その辺の事が良く解らないので、いつも戸惑うばかりです」
 ぼくは自嘲気味に笑った。
 「少し話がずれましたが、バツくんが奥手だとしたら、どうすればいいのでしょうか?」
 「そうですね。奥手の人の心理には、嫌われたくないという気持ちが隠れています」
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