夜明けのコーヒーには 早すぎる
 「でも、これは飽くまでラブロマンス的にどうかってことだから」
 Tはヒロコに笑い掛けくる。
 ヒロコは心の中で嘆息した。この手の男尊女卑的思考を持った相手は、いつも無視していたからである。
 今日は映画館からの腹立たしさに、つい口を挟んでしまった。
 しかし、口に出してしまってはヒロコも後には退けない。
 「では、主人公の青年が他の女性と関係を持ったことはどうなのですか?」
 ヒロコは言った。
 「それはほら、男の性というか何というか。多少、仕方ない部分があるよ」
 Tはニヤニヤしながら言った。
 「そんなもんですか」
 ヒロコは呆れて、素っ気なく答えた。
 男がよくて女が駄目という論法は、女性を対等に扱っていないことになる。少なくとも、女性にも性欲はあるというのに、だ。だが、Tは自分の言葉の意味を理解していないのだろう。だから、こんなにもへらへらしていられるのだ。
 そう思い至った時、ヒロコはTとこれ以上関わりたくないと本気で思った。
 だが、ヒロコの思いとは反対に、Tは益々の馴れ馴れしくなってくる。
 「そうそう。男は本能的に子孫を残そうとしてしまうからね」
 Tはヒロコの手を握ってくる。
 「自然の摂理ってやつだよ」
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