夜明けのコーヒーには 早すぎる
 「希望的観測ですね。でも、一年半も付き合っていて、マルさんは気付かなかったのでしょうか?」
 「た、確かに、そう言われると弱いですね」
 ユリさんは嘆息して、ホットケーキを一切れ口に放り込んだ。
 ゆっくりと咀嚼しながら、色々と思考を巡らせているのが見て取れる。
 一切れ目を飲み込み、二切れ目にフォークを突き刺した時、突然ユリさんは顔を上げた。
 どうやら、何か思い付いたらしい。
 「性同一性障害、ということは考えられませんか?」
 「成る程。性同一性障害であり、レズビアンでもあるのですね」
 「そうです。これなら、マルさんがバツくんの本当の性別に気付かなかったとしても、不思議ではありませんし、一年半の間何もしなかったことにも納得出来ます」
 「確かにそうですね。バツくんが何もしなかったのは、したくても出来なかったからですね」
 「触れたくても、触れられない。自分の秘密が知れてしまう。秘密が知れたら、嫌われるかも知れない。それなら、少しでもこのまま一緒にー」
 ユリさんは手の甲を口に当てて、ヨヨヨヨヨと言っている。
 何かに入りきっているようだ。
 そっとしておこう。
 ぼくは、ホットコーヒーを啜った。
 コーヒーを啜りながら、つと、ぼくは思考を巡らせる。
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