夜明けのコーヒーには 早すぎる
 そして、もう一つの可能性が、ぼくの頭の中に生まれた。
 「ユリさん」
 「ヨヨヨヨヨ―えっ?何ですか」
 ユリさんは姿勢を正し、ぼくに向き直る。
 「もう一つの可能性を、思い付きました」
 「流石です。待ってました!」
 ユリさんは破顔した。
 「そんなに期待されると言い難いですが、バツくんはノンセクシュアル―つまり、非性愛者だったのではないでしょうか」
 「非性愛者。確か、他人への性的欲求を持たない人や、他人への性的接触を求める欲求がない人のことでしたね」
 「そうです。バツくんが非性愛者ならば、何もしないことはバツくんにとっては、むしろ当たり前だと言えます」
 「確かにそうですが、その場合はどうすればいいのでしょうか?」
 「マルさんの気持ち次第ですね。気持ちは好き合ってるのですから、それも良しとするか、身体のパートナーを別に見つけるか、バツくんに迫ってみるかですね」
 「えっ?でも、迫っても非性愛者であるバツくんには応えられないのでは?」
 「そうとも限りません。定義的には、他人への性的接触の欲求がなければいいのですから、バツくんは性的行為に応じれる可能性があります」
 「成る程。しかし、互いに求め合っての性的行為でなければ、それは片方の自己満足になりませんか?」
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