夜明けのコーヒーには 早すぎる
 クロは胸に手を当て、安堵の息を吐く。
 「では、今夜何処かで呑みながら聞かせて頂きましょう」
 ユラはそう言うと、自分の机に向き直り、午後の仕事に取り掛かった。
 素っ気ない感じだが、ユラは元々こんな感じである。
 最初は戸惑っていたクロも、すっかり慣れてしまった。
 「おれも仕事するか」
 そう呟いて、クロは自分の机に戻った。途中、仮眠で寝過ごしそうな部下の頭を軽く叩いて回るのも忘れない。

 午後の仕事が終わり、クロが帰り支度をしていると、ユラがクロの机までやって来た。
 「準備出来ました。主任」
 「あ、ああ。少し待っていてくれ」
 「わかりました」
 ユラは頷くと、そのまま立ってクロを見下ろす。
 クロは急いで支度を終えると、ユラと一緒に会社を出た。
 クロの行きつけの店に入り、 奥の座敷席に二人は向かい合って座った。
 クロはビール、ユラは梅酒を注文し、「お疲れ様」と乾杯をする。
 クロはビールを一気に半分ほど空け、舌の滑りを良くしてから、「実は相談というのは、シロさんのことなんだ」と切り出した。
 シロさんというのは、ユラと同じ部署の色白の女性のこと。
 勿論仮名である。
 「彼女が何か?」
 ユラは梅酒を傾けながら聞いた。
< 96 / 200 >

この作品をシェア

pagetop