夜明けのコーヒーには 早すぎる
 「シロさんには直接聞き難いことだから、カトリさんに聞くんだけど―」
 「はい。何でしょう?」
 「シロさんって、特定の恋人いたりするのかな?」
 「いえ」ユラは即座に否定する。「いないと思われます」
 「ほ、本当かい!」
 クロは破顔一笑して喜ぶ。
 「成る程」ユラは頷いて、梅酒を呷る。「今日呼ばれたのは、そういうことですか」
 「な、何がだい?」
 「隠さなくても、流石に解ります。主任はシロさんにほの字なのですね」
 「うっ。まあ、そうだけど」
 「確かシロさんは、大学卒業まで共学の経験がない、所謂箱入り娘だとか」
 「く、詳しいね」
 「新入社員の歓迎会の折りに、隣りの席でしたから、その時に色々と身の上話を交わしまして」
 「そうだったのか」
 「はて?」ユラは首を傾げる。「このことは、割りと知れ渡っている筈。主任が知らないとは、正直意外でした」
 「いやっ。そのっ。何と言うか―」クロは頭を掻きかき、ビールを呷る。「彼女の前だと緊張してね。仕事の事ならともかく、個人的な話なんてとても出来ないんだ」
 「そうですか」ユラはゆっくりと頷き、クロを見据える。「主任は、気弱なところがありますからね」
 「我ながら情けないよ。全く」
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