あたし、猫かぶってます。


 パニック状態のあたし。とりあえず倉庫の奥にあるデカい跳び箱の中に入る。外からは分からないけど、矢口が来たらすぐに分かる。あたし、ナイス。なんて考えていると、


 ヴー、ヴー、ヴー、

 ポケットの中で震えるスマホ。


 体育座りの状態で、ゆっくり腕を動かしてスマホを見るとーー“秋村奏多”の文字。


 「もしもし、」

 小さな声で、電話に出る。やばい、泣きそうなんだけど。


 『色々あって…今、駅前で早瀬くんとアイス食べているんだけど、結衣も来る?』


 『おい、俺にも代われよ』

 電話越しに聞こえる、奏多の気遣いと、早瀬の自己中発言。


 『おい、結衣。来るか?』


 『ちょ、早瀬くん!俺まだ話してたんだけど!』

 おそらく、無理やり奏多から携帯を奪ったのだろう。後ろで文句を言う奏多。なんで仲悪い2人がアイスを食べているの、意味分かんない。


 「行かない、帰る。」

 楽しそうな2人の声を聞いたら、助けてなんて言えなかった。奏多に心配かけたくないし、早瀬に借りを作るのもやだし。


 『結衣、なんかあっただろ?』

 突然、早瀬の声色が変わる。あたしは何も言ってないのに。


 『結衣がどうしたの。』

 後ろで奏多も焦ったような声であたしの心配をする。せっかく2人には迷惑かけれないから、麻紘にでも電話しようと思っていたのに。バカ。


 「助けて!!! 」

 跳び箱に入って、怯えて。でも、言わなくてもいざとなったら助けに来てくれる…なんて漫画みたいに都合良く世の中回ってない。

 自分で助けてって言わなきゃ、ヒーローだって助けに来ないんだ。


 『『今、どこ!?』』

 2人の声が、ハモる。あたしはちゃんと聞こえるように、少し大きめな声で喋る。

 「学校の体育かーーー「結衣ー?どこだー?」

 全部言い終わる前に、聞こえてきた、声。


 「っ、」

 思わず通話を切断して、ついでに電源を切る。


 「お前がここに居るのは分かってるんだぞー?」


 奏多と早瀬は、絶対来てくれる。そんな気がした。

 駅から学校まで走っても10分はかかる。考えろ、あたし。この状況で、どうやって時間を稼ぐか、考えろ。


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