あたし、猫かぶってます。


 「早瀬、秋村。お前らも俺に逆らったら、これから先困るんじゃないか?」

 早瀬と奏多を見て二ヤッと笑う、カス矢口。


 「てか先生、4年前に生徒と付き合ってたらしいっすね。」

 怯むことなく、矢口に反抗する早瀬。その隙を見て、あたしは奏多のところまで走る。


 「…誰がそんなデマ、」


 「槙村遼…って言ったら、分かります?」


 「っ!」


 「俺の家庭教師なんですよね。前から結衣を変な目で見てる先生が居るから、ココの卒業生の遼くんに聞いて…びっくりしましたよ。遼くんの彼女と付き合ってたなんて。」

 マキムラさんの名前を聞いてから、明らかに動揺した表情になる矢口。


 いや、でも今はそんなこと、どうでもいい。


 「ちょっと早瀬!!家庭教師とか聞いてないし!」

 てっきりノー勉でテストに挑んでると思ったのに、なに家庭教師雇ってんのよ!そんなんじゃあたしが勝てなくて当たり前じゃん!


 「うるせ。勉強しないで1位取れる訳ないだろ。」

 まさか早瀬には家庭教師っていう強い味方が居たとはーーさすがに予想外。早く策を打たなきゃ、一生テストで早瀬に勝てない。


 「結衣も家庭教師雇えばいいんじゃないの?」


 「あたしは自力で一位取りたいの!」

 あたしと早瀬の会話を聞いていた奏多は、すっかり緊張感が抜けたようで、呆れたようにあたしを見た。





 「んで、話戻すけど、」

 ほぐれたような雰囲気が、早瀬の低い声で一気に戻る。


 「どうする?クソ矢口。写真もあるし、録音もしたし、証人も居る。もう、お前の味方は居ねぇよ?」

 早瀬のこの冷め切った瞳と冷たい声を聞くのは、安達事件以来だ。


 「形勢逆転。矢口、詰んだな。」

 奏多はそう言いながらあたしの頭を優しく撫でる。


 なんていうか、この2人。すごくないですか?


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