あたし、猫かぶってます。
「校長にだけは…っ!!」
ーーーガンッ
自分の状況に気付いたのか、必死に頭を下げる矢口。倉庫の扉を思い切り蹴る、早瀬。
「違うだろ。」
「え?」
早瀬の低い声は、なんていうか、迫力がある。
早瀬はかなり喧嘩強いし、頭もキレる。一年の時はよく喧嘩してたみたいだし、チャラい人達と居るのを駅でよく見た。
その時は、あんなチャラチャラしていてなんであたしより頭いいんだろ。くらいにしか思ってなかったんだけど、チャラチャラしていた頃の早瀬は顔が死んでいた。
ていうか、なんか寂しそうな感じ。
「なんで、俺に謝ってんだよ。」
それに比べたら、ずいぶん人間らしくなった。優しくなったし、あたしと仲良くなってから早瀬は変わった。
「結衣に謝れよ…っ!!」
人のことを考えてくれるようになった。
早瀬=自己中。その通りなんだけど、早瀬はわがままを言いながらもあたしの事を考えてくれる。
「結衣、すまなかった…」
ほら、あたしのピンチの時は、いつだって早瀬が助けてくれる。
「馴れ馴れしく結衣って呼ぶな、こら。」
あたしのことなのに、自分のことみたいに真剣になってくれる。
「もう、いいです。…大丈夫なんで、二度と関わらないで下さい。」
早瀬があたしの分まで怒ってくれたから、裏の結衣ちゃんは出さないでおいてあげるよ。分かったか、カス矢口。
奏多はギュッとあたしの右手を握り、
「三人で、アイス食べに行こうか。」
笑顔でそう言う。
どっちが好きとか、そういうのじゃなくて、早瀬も奏多も、あたしの大切な人なんだ。あたしはどうやら、2人が大好きらしい。
てか、早瀬達、なんで一緒に居たんだろ?