あたし、猫かぶってます。


 ある日、俺に一本の電話がかかってくる。


 「もしもし、」

 電話は、麻紘からだった。あいつが俺にかけてくるの、珍しいなー。なんて思いながら出る。


 「ごめん。」

 暗い麻紘の声に、直感で口を開く。


 「結衣になんかあったの?」

 結衣のせい、というわけでは無いけれど、あの事件があってから麻紘とあまり話さなくなった。


 俺と仲良くしてると、結衣がまた悪口言われるかもしれないから、なんてバカなことを言い出した麻紘。あまりに真剣な表情だったから、頷くことしか出来なかった。

 そんな麻紘から、電話なんて。結衣のことに決まってる。



 「由真と、会った。」

 ーーー怒りでも、悲しみでも無く、純粋に驚いた。


 「結衣は笑っていたけど、正直かなりキテるはず。」

 由真にハブかれてから、結衣は友達を呼び捨てで呼ばなくなった。それがどうしたと思うのが普通なのだけれど、

 以前の結衣は二重人格だったし猫かぶっていたけれど、いつも明るかった。猫かぶるのも割と楽しそうだったし。


 最近、ハブかれる前の結衣に戻ったのかって思うほど明るかった結衣を見ていたから、



 ピンポーン、


 ガチャッーーーギュッ


 「え、奏ーー」

 笑顔で俺を待っていた結衣を、気付いたら抱き締めていた。

 なんで俺にまで猫かぶってるんだよ。なんで俺にまで、無理して笑ってんだよ。今、一番泣きたいくせに。バカ結衣。


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