あたし、猫かぶってます。
漫画の主人公と結ばれるヒーローは、「イケメン」「ドS」「王子様」な、キャラクターで。俺みたいなヘタレは最後に想いを伝えて玉砕するみたいだ。
「はい、続き。」
そう言って、今度は四巻から六巻まで渡す、麻紘。
男のくせにアイスクリーム・ラブなんてめちゃくちゃ絵が可愛い漫画読んでキュンキュンしてるのかよ、って思われるかもしれないけど。
漫画は日本の文化であって、俺は文化をたしなんでいるだけに過ぎない。
「結衣には言うなよ。」
そうは思うけど、結衣には知られたくなかったりするんだよね。
「なんで?」
「漫画の主人公を結衣に置き換えてキュンキュンしてるなんて知られたら、恥ずかしくて死ぬ。」
って、俺キモイな。結衣の幼なじみんとはいえ、妄想じゃん。もはや。
「奏多、可愛いな。」
「まひ…っ!?抱きつくな!!胸触んな!!」
俺に抱きつきながら、楽しそうに胸を触る麻紘。慣れているとはいえ、誤解されるからやめて欲しい。
「ーーー奏、多…?」
ドアの方から声がして、嫌な予感が、的中する。
「あー、結衣。これは、」
結衣は麻紘とよく俺の取り合いをしていたせいか、麻紘と密着すると今みたいな冷めた目をする。
妬いているんだろうけど、普通の可愛い妬き方じゃないあたりが、結衣らしい。
「麻紘、人の好きな人にちょっかい出すとかまじ無いわ。」
人が居ないせいか、本性全開の結衣。
「奏多の一番は、俺だし。」
「あたしだし!」
懐かしい、取り合い。結衣は昔から俺の一番は結衣だって言ってたな。まあ、間違ってないんだけど。
そんなこと考えていたら、漫画に影響されて勝手にヘコんでいた自分がバカらしくなってきた。
だって、結衣はいつだってこんな真っ直ぐに俺を好きだと伝えてくれているのに、早瀬くんが動いてきたことに焦っているなんて、バカみたいじゃない?
「なに笑ってんの、奏多。」
可愛い顔をしかめて、俺を見る結衣。
「結衣が好きだなって思っただけ。」
アイスクリーム・ラブで篠原くんと結衣がくっついたとしても、現実で俺と結衣がくっつけば何の問題も無くない?
ーーーギュッ
「あと、俺の一番は、結衣だから。」
麻紘に見せつけるように、結衣を抱き締める。チキン奏多だって、恋したら頑張りますよ、そりゃあ。
早瀬くんがやりたい放題してるなら、俺だってやりたい放題していいはずだ。反撃開始だよ、早瀬くん。