あたし、猫かぶってます。


 「…あれ、早瀬?」

 携帯を見ると、もう夕方になっていて。あたしが掴んでいたはずの早瀬の手はどこにも無かった。


 「結衣ちゃん、起きたのー?」

 隣の部屋から声がしたと思ったら、パタパタと走ってくる足音。あたしが寝てる間にママが帰って来たようだ。


 「朔くんなら、本当についさっき帰ったよ?」

 そう言って、優しく笑うママ。



 さっきのあたしの言葉、聞こえていたのかな。なんて考えながら、今更恥ずかしくなる。


 「朔くん、プリン12個も買ってきたんだってよ?ケーキ屋さんのプリンとかもあるけど、食べる?」


 ーーーあぁ、だから一時間半もかかったんだ。



 それなのに、泣いたりして。あたしって本当に何も分かってなかったんだな。ワガママばっかりで、自分のことしか見えてなくて。ありがとうも、言ってない。


 「ママ、ごめん。」

 起き上がる、あたし。オシャレなパジャマなんかじゃない、ジャージ姿の髪がボサボサな可愛くないあたし。それでも、



 「早瀬に、お礼言ってない。」


 長袖にハーフパンツ。そしてモコモコ靴下。こんなところ知り合いに見られたら死んじゃう。そう思うのに、気付いたら勢い良く走り出していた。


 早瀬のもとへ向かって全力で走る。頭痛い、身体熱い。ーー勉強以外でこういう風に必死になったの、久しぶりかもしれない。


 「早瀬…っ、」


 見慣れた後ろ姿に、大声を出す。



 あたしの声に、ゆっくり振り返る早瀬。


 「ありがとう!!!」


 あたしがそう言えば、ーーー驚いたようで、困ったようで、どこか嬉しそうに。


 「結衣、本当にバカだな。」

 って、笑いながらあたしの頭を嬉しそうに撫でた。


 結局その後、早瀬におんぶされながら家まで送ってもらって、あたしは6日間学校を休んだ。


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