あたし、猫かぶってます。
あたし、大切なんです。


 「奏多、どうしたの?」


 奏多の家の前で勇気を振り絞ってそう聞く。

 見るからに不機嫌っぽい奏多。周りから見ればいつもの奏多なのだろうけれど、あたしにはちゃんと分かる。


 「…何が?」


 笑顔でそう言うんだけど、やっぱりおかしい。奏多のこの表情を見るのは、久しぶりだ。


 「奏多と何年幼なじみやってると思ってるの?」

 隠しきれるとでも思っているの?


 「…結衣には、隠し事できないね。」


 「ねぇ。今日の奏多、なんかおかしいよ?」


 「…来て。」

 グイッと引っ張られて、奏多の家に入る。


 「え、奏…っ、痛い!」

 奏多って、こんなに力強かったんだ。なんて、今更思った。そんな奏多に、ちょっとだけ戸惑うあたしが居て。


 ーーーガチャッ

 いつも来ているはずの奏多の部屋も、まるで違う部屋みたいに気がした。


 「結衣は、俺のこと好き?」

 真剣な顔で、あたしにそう問いかける奏多。ーーその問いかけに黙って頷くあたし。


 今更、好きかなんて聞かなくてもあたしの気持ちは奏多が一番分かっているんじゃないの?


 「俺も、結衣が好きだよ。」

 優しく微笑む奏多。いつもは、この笑顔を見るだけで、あたしは幸せな気持ちになれた。それなのに、今日はどこか胸が苦しくて。


 「だから、結衣を大切にしたかった。」

 奏多が、つらそうに。すごくつらそうに。あたしを見て。再び口を開く。








 「ごめん、今日で幼なじみやめる。」

 そう言って、あたしにキスをしたーーーー


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