あたし、猫かぶってます。


 「奏多は、バカだよ。ずっとずっと1人で悩んで、早瀬が好きとか勝手に勘違いして、無理やりキスして。」

 言葉じゃ表しきれないこの気持ちは、どうしたら奏多に伝わる?


 「早瀬は…っ、初めてあたしと向き合ってくれた、大切な人だし、早瀬が居たから麻紘とも、知奈ちゃんとも、今みたいに仲良くなれた。」


 じわじわ涙が溢れてくる。こんなことでいちいち泣くなんて、バカバカしい。そう思うのに、喉元と目頭が熱くなって、涙がポロポロと零れてしまう。


 早瀬と奏多、どっちも同じくらい大切だし、大好きだし、選べとか言われても困る。大切なのは2人とも一緒。違うのは恋愛感情を抱いているか、いないか。


 「早瀬と奏多、どっちかを選ぶなんて出来ないけどーーあたしが恋愛感情を抱いているのは奏多だけだよ!!」

 自分勝手でいい。だってあたし、ワガママだもん。性格悪いもん。


 「早瀬はあたしの理解者だけど、確かにいつも一緒に居るけど、あたしは早瀬と付き合いたいって思ったことは一度もないよ…っ!?」

 そう言って、奏多の肩をボカボカと叩く。叩いている拳が、ちょっとだけ痛い。


 「二兎追う者は一兎も得ず、なんて言うけど、奏多も早瀬もウサギじゃないし、あたしの大切な人だもん。大好きな人だもん。」

 ワガママ、自己中、優柔不断、タラシ。何言われたって別にいい。他人なんてどうでもいい。



 「悪いとこあるなら直すから幼なじみやめるなんて、言わないで。遠くに行こうとしないで。嫌いになって欲しいなんて悲しいこと、言わないで。」


 「っ、」

 あたしが一番辛いときに、助けてくれたのは奏多だった。


 「もう、1人にしないで。」

 早瀬が居ても麻紘が居ても知奈ちゃんが居てもーー奏多が居なきゃ意味ないんだよ。全然、意味ないんだよ。


 最初から答えは決まっていたんだよーー?


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