あたし、猫かぶってます。


 断る理由なんか無い。中3の時からずっとずっと好きだった奏多。ずっとこの言葉を待っていたんだもん。


 「…よろしく、お願いします。」


 なんて。ガラにもなく敬語を使っちゃって、ぺこりとお辞儀をしたら、奏多は一瞬すごく悲しそうな顔をした。ーーー気がした。


 「奏多?」

 心配になって、もう一度奏多の名前を呼ぶと、


 「なに、結衣?」

 そこには幸せそうに笑う奏多。


 きっと、さっきの悲しそうな顔は見間違えだな、なんて自分に言い聞かせる。ーーーでも、多分、見間違えなんかじゃない。



 「奏多は、幸せ?」

 大好きな奏多から、たくさんの幸せを貰ったんだから。今度はあたしが奏多を幸せにしなきゃ。


 「結衣が居るなら、俺は幸せだよ。」

 そう言って、あたしの髪を優しく撫でる。


 2年間、奏多とは本当に色々あったけど、やっとあたし達は恋人になれたんだ。


 「結衣、目、閉じて?」

 奏多の言葉に、あたしはゆっくりと目を閉じる。



 ーーーーーチュ、


 恋人になってから、初めてのキス。だけど、なんか甘くない。奏多コーヒー飲んだ?


 「なんか、甘くないね。」

 そう言いながら、2人で笑い合う。早瀬の顔が一瞬頭に浮かんだけどーー強制的に削除。



 あたし、奏多の彼女になりました。


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