あたし、猫かぶってます。
俺、自己中男子なんです。


 自己中で、性格が悪くて、王様みたいだなんてずっとずっと前から自覚していた。


 整った外見のおかげか、そんな俺を咎める奴なんて1人も居なくて、思い通りに何でも進んでいった。

 この外見と、無駄に働く頭脳を使って何不自由なく暮らしていたし、イライラしたときはチャラチャラした奴らと一緒になって喧嘩したりーーそれなりに満足していた。


 「早瀬くん、頭良いんだから勿体ないよ。」

 喧嘩した後の帰り道、初めてあいつに話しかけられた。


 早瀬結衣。同じクラスの女子で、隣の席。みんな可愛い可愛いって騒いでいるし、俺もまぁまぁ可愛いとは思う。

 けど、2人でまともに会話なんてほとんどしていない。

 前にテストのことで、話したりはしたけれど、プライベート的にはそんなに親しくない。


 「…俺が好きでやってんだから、別に良くね。」

 しかも、早瀬より成績優秀だし、咎める要素なんて無いんじゃね?なんて思いながら、早瀬を見る。


 「でも、結衣の大好きなカフェの近くで喧嘩なんかされたら、困っちゃう。せっかく頭良いんだから、もっと違うことを頑張ろ?」

 可愛らしい笑顔で、語尾にハートマークなんかついていそうなのに、しっかり早瀬の本音が伝わってきた。


 つまり、喧嘩なんかされたら迷惑。喧嘩してる暇があるならその無駄に良い頭活用して違うことやれよ、的な?



 「わかった。喧嘩はもうしない。」

 そう言うと、早瀬は大して興味無さそうに携帯をいじっていた。


 「あ、結衣もう帰るねっ」

 なんて分かりやすい作り笑い。


 こいつ、性格悪そうだな。いっそ、クラスの奴にバラすとか脅せば仲良くなれるかな?…なんて思ったりもした。

 とりあえず、早瀬結衣に興味が湧いてきた。


 ーーー高一の冬休み最後の日のこと。


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