あたし、猫かぶってます。
それから、半年も早瀬とバトルを重ねるも、相変わらず俺に興味を示さない早瀬。その態度が気に入らない俺は、徹底的に早瀬に敵意を示した。
嫌い、じゃない。気に入らないから、ムカつく。早瀬が気になって気になって、最近は彼女の棗にも早瀬のことばかり話してしまう。
棗とは幼なじみみたいなモノで、中学3年生の卒業式の日に告白された。
最初はそういう対象じゃなかったし、断ったのだけれど、卒業式でも泣かなかった棗が泣きながら二回目の告白をするからーー負けた。
女の涙は卑怯だ。泣けば言うこと聞くと思ってんだろ、どうせ。…それでも、棗が泣いたのは、意外だった。
家族みたいな存在だったから、初めて棗の気持ちを知って、かなり戸惑った。彼女が居なかった訳ではないけど、俺をよく知る人間が彼女なんてーー格好つかないだろ?
まぁ、そんなわけで2年も付き合っていれば普通に好きになっていったし、これからも棗と時間を重ねていくんだと思っていた、のに。
「早瀬くんはいいよね!!!」
ある日、からかいのつもりで秋村奏多と早瀬の関係をバカにして、ついでに「俺のこと嫌いだろ?」なんて言ってみたら、いきなり声を荒げる早瀬。
それから早瀬は、俺は努力せずにみんなに認められているだとか、自分は猫かぶって初めて認められるんだとか、そんなことを言い出して。
「結衣はみんなに好かれたいだけなんだ?」
「悪い!?」
ふっきれたように、やっと隠していたモノを出してくれて。初めて見る感情的な早瀬結衣を見て、
「なんか、可愛いな。」
なんて、言ってしまった俺。
バカみたいに、俺に劣等感を感じていた早瀬が、震える声で必死に自分の感情をさらけ出す早瀬が、ーー可愛く、見えたんだ。
もっと、結衣に近付きたいわ。
そう思ったから、俺は手を伸ばした。