あたし、猫かぶってます。
人は見かけによらない。なんて言葉があるけど、その通りだと思うんだ。
「さっきの男子、わざとぶつかってきた。なにが大丈夫?だよ。きも。」
そう言いながら、男と接触したほうの肩をパンパンとはらって、毒を吐く美少女ーー結衣。
そのキモい男に、さっきまで笑顔で「お怪我なかったですか?」とか聞いていたのは誰だよ。なんて思いながら、隣を歩く。
ある日を境に、結衣との距離は一気に縮んだ。
それは、斎藤知奈という、クラスの女子を助けて欲しいなんて、結衣に泣きながら言われた日。女子のくだらないイジメで、結衣が俺に助けを求めると思わなかった。
まぁ、結衣が悩んでいたのは知ってたし、助言らしきものをしたりもしていたけどーーまさか、俺を頼るなんて。予想外だった。
ずっと敵視されていたし、消しカスを誰にも見られないように俺の机に置いたりーーとか、地味な嫌がらせを俺にしていた結衣が、頼りにしてくれていたと言うことが嬉しかった。
そんなツンデレみたいな結衣を、助けたいから助けた。
助けてから最初の1ヶ月はツンツンしていた結衣も、日を重ねるごとに一緒に行動することを拒まなくなって。
どんどん、結衣が近い存在になっているのが、自分でも分かった。
俺、結衣、親友の麻紘、斎藤で過ごす時間が増えて、更に仲良くなるのに、そう時間はかからなかった。
そして、仲良くなるにつれて、自分の感情が変化していることも、ちゃんと理解していた。
結衣と、結衣の幼なじみの秋村奏多が一緒に居るところを見ると、なんかイライラするし。
結衣が泣いていると、なんか抱き締めたくなるし。
結衣がたまに見せる素直な顔を可愛いなんて思ってしまうし。
イライラして、苦しくてーーー愛しい。
人生で何度か経験したことがあるこの感情を理解するのは、数学の方程式を解くより容易いことだった。
あ、俺。早瀬結衣が好きだ。
ーーーーハッキリそう自覚したのは、高2の12月のことだった。