あたし、猫かぶってます。


 その日は、寒かったから結衣とココアでも飲みながら楽しくお話しようかな、なんて乙女チックなことを考えていた。けど、



 「彼女居る男と遊ぶほど安くないんで。」

 なんてどこかで聞いたことがあるようなセリフを吐いて、トイレへ行ってしまった結衣。


 内心、かなりグサッと刺さった一言。確かにそろそろケジメつけなきゃいけないと思っていたからーー俺は、棗に電話をした。


 『朔っ!?』

 電話に出た棗の声は驚きを含んでいて。そんな棗に、ゆっくりと伝えた。


 「好きな人が出来た。すげぇ好きなんだ。ーー別れたい。」

 結衣を好きになった今なら、棗の別れたくないという気持ちも理解できた。棗を傷付けているのも理解していた。


 棗は静かに「話がしたいからいつも公園へ来て」と言ったので、俺は素直に従った。






 「好きな人って、結衣?」

 公園で、棗に問い掛けられる。俺は静かに頷くと、険しい顔に変わっていく棗。こんな表情を見たのは、多分初めてだ。


 それから棗は、納得できないと俺にすがったが、意見が変わらない俺に耐えきれなくなったのか、


 ーーーパンッ


 強いビンタをして、怒って帰ってしまった。


 俺には落ち込む資格も、怒る資格も無かった。でも、これで正々堂々と結衣を好きになる資格を手に入れることができた、と思いながらボーッとしていると、


 「奢るから、アイス食べない?」

 目の前には、ふわりと笑う結衣の幼なじみの秋村奏多が立っていた。


 今まで勝手にライバル視していた秋村奏多に話しかけられたのは意外だったけどーーちょっとだけ、嬉しかった。なぜか。


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