あたし、猫かぶってます。


 結衣が俺のことを好きだとまでは期待していなかったけど、最近は奏多より結衣と一緒に居たし、確実にリードしていると思ったのに。


 “早瀬の気持ちには応えられない”

 なんて、バッサリ振られた。こんなにハッキリと結衣に言われたのは、多分初めてだ。


 結衣の声は震えていて、なんで俺を振る側の結衣がこんな声なんだよ。意味分かんね。ーーこんなんで、俺が納得できると思ってんのかよ。

 「ドア、開けて。」


 そう言えば、素直にドアを開ける結衣。

 扉の先に居た結衣は、今にも泣きそうな顔をしていて、俺の心臓がズキズキと痛んだ。


 なんて言えばいい?なんて言えば結衣はそんな顔をしなくて済む?ーー考えれば考えるほど、答えは俺にとって残酷で。

 俺が居なければ、奏多と結衣は幸せなカップルで、奏多を不安にさせているのは俺で、結衣を今泣かせているのも俺。


 なんだよ俺、ろくなことしないじゃん。

 ーーーならせめて、今だけはせめて。笑え、俺。


 「よかったじゃん。」

 自己中な俺が、まさか自分の好きな人に作り笑いなんて。自分でも笑えてくる。結衣も笑えよ。なぁ、


 「ーー早瀬、ごめん。」


 なんでお前がそんな顔するんだよ。なんでお前が謝るんだよ。やめろよ、なぁ。


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