あたし、猫かぶってます。
謝るくらいなら、奏多を選ぶなよ。なんて言ってしまう俺は本当に自己中な人間なんだと思う。
結衣と奏多を笑って応援することも出来なければ、結衣を思い切り突き放すこともできない。中途半端なのは、結衣じゃなくて、俺だ。
奏多より幸せにできるだなんて思っていたくせに、いざ奏多と結衣が付き合った今、結衣を泣かせてでも奏多から結衣を奪うなんてこと、俺には出来なかった。
「これで最後にするから。」
こんなことを言って、結衣の気持ちを少しでも自分の方に引き寄せていたいなんて、ずるいよな。
ーーーギュッ
優しく抱きしめる。諦めたくない、結衣が好きだ。…なんて、往生際の悪い本音を隠して、今までで一番。自己中じゃない嘘を吐く。
「結衣を諦めるまでーーもう、関わらないから。」
出来るはずもない、こんなこと。
好きになるのは簡単でも、好きを辞めるのは難しい。けど、今俺が出来る一番の選択はこれだから。
優しく結衣にキスをして、ーー突き落とす。
きっとこれが俺の人生で最後のキスだ。なんて思いながら、ゆっくり唇を離す。
「幸せになれよ。」
そう言って、静かにドアを開け、歩き出す。
追いかけてくんな、追いかけてこい。矛盾した気持ちが、俺の歩調を緩める。
結局、結衣は追いかけては来なかった。