あたし、猫かぶってます。
《早瀬にテスト勝ちたくて徹夜したんだから!》
《ちょ、テスト勉強しないでよ早瀬!!》
《イケメン家庭教師なんて、卑怯すぎる!》
結衣がどれだけ俺に勝ちたかったかは、一番俺が分かっていた。そして、結衣がどれだけ努力してきたかも、分かっていた。
あいつ、俺に勝つために睡眠削って普通にクマ作って来るし、なんでも対抗して来るし、普通に負けず嫌い過ぎるだろ。
そんなに敵視していた俺に、やっと勝てたのに。
「は、や、っ、早瀬ぇ……っ、」
なんで俺の名前呼びながら、泣いてんだよ。
嬉しがれよ。大した男じゃなかったって、いつもみたいにウザイくらい威張った顔で言えよ。てか本当、頼むから泣くなよ。ーー決心が、揺らぐ。
泣いている結衣に、なんて声をかければいいのか分からない。けど、このまま放って置くことなんか出来なくて。
少しずつ、結衣に近付く。
「ーーーー結衣。」
そんな俺の足を、ピタリと止めてしまう声。
「…また、泣いてたの。もう、帰ろ?」
そう言って、結衣の肩をしっかりと支える奏多。その姿に、痛いくらいに見せ付けられる現実。
俺は、結衣に触れることさえ、できないんだ。