あたし、猫かぶってます。
そのまま奏多と一緒に歩いていく結衣。ーー追いかけたくて、仕方なかった。
「意味分かんね。」
振られたのは俺で、あいつは奏多の彼女で、もう望みなんか無いはずなのに。諦めようと自分の意志で決めたはずなのに。
自分の名前を呼ばれた嬉しさと、泣き顔を見たときの切なさ。そして奏多が居ないのをいいことに、触れようとしていた自分の浅ましさ。
全部、うまく進まなすぎる物事と自分の感情に苛立ちさえ覚える。
忘れようって思えば思うほど、鬱陶しいくらいに結衣の存在が自分の中で大きくなっているのが分かった。
もしもあの日。俺が結衣の家へ行かなければ、俺が結衣を抱き締めなければ、俺が結衣に自分の気持ちを押し付けてキスしなければ。
《1位おめでと、次は負けないけど。》
なんて言えたのだろうか。
俺が結衣を好きにならなければ、あいつの努力を褒めながら友達として笑いあって、友達として結衣の近くに居られたのだろうか。
「…っ、くそ。」
好きな人の、側にいたい。なんて考えるほど乙女チックな性格じゃないけど、好きな人が泣いているのをただ見ているだけの男なんてーーただのバカだろ。
「ーーー早瀬くん。」
ふいに、後ろから声がして。ゆっくり振り返る、俺。
「早瀬くんに、話があるんだ。」
真っ直ぐに俺を見ているそいつは、そう言って切なく瞳を揺らした。
「ーーー奏多。」