あたし、猫かぶってます。


 「早瀬くんに言いたいことがあるんだ。」

 いつになく真剣な表情の奏多に、結衣のことを話すんだなってすぐに理解できた。


 まさか、結衣に関わるな。とか?

 さっき結衣に話しかけようとしていたの気付いていたとか?ーーまぁ、俺は奏多に何を言われても、言い返す権利すら無いんだけど。


 「話って、なに…?」

 聞きたくないけれど、聞かなければいけない。ーーけど、これ以上結衣と奏多の絆なんか見たら、俺の方がどうにかなってしまいそうだ。


 「結衣のこと、なんだけど。」


 ほら。

 結局あれだろ?やっと結衣と付き合えたのに俺が変に結衣を避けたせいで、逆に結衣が俺のこと考えるようになってーー迷惑だ。とか?


 知らねぇよ。こうすることでしか、俺は結衣の中に居られないんだから。俺は自分の気持ちと引き換えに結衣の同情を取ったんだから。

 こっちだって色々キツいのにーーー


 今は奏多の結衣に対する気持ちを聞いてあの時みたいに作り笑いで祝福なんて出来るような状態じゃない。俺だって、結衣を諦めれねぇんだよ。


 「ーーーーごめん。」


 「だから、俺だってーーーーーーえ?」

 目の前には、俯きながら俺に謝る奏多が居て。



 「結衣を泣かせてるのも、あんなに悩ませているのもーー早瀬くん自身だけど、早瀬くんじゃないんだ。」

 切なく笑う奏多が、意味深な言葉を俺に投げかける。


 「俺が、結衣の弱味につけ込んだ。」

 そう言って、再び口を開いた奏多はーー今にも泣きそうな表情だった。


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