あたし、猫かぶってます。
「結衣を諦めた?ーーなんの冗談だよ。」
「てか、俺。もう結衣のこと好きじゃねぇし。」
そう言いながら、スマホをいじる。そしてとあるメールを開いて、ため息を吐く。
【結衣を諦めたって証拠として、あたしと付き合えば結衣とも、結衣の彼氏とも前みたいに戻れるんじゃない?】
一昨日からずっと返信していなかった棗からのメール。きっとこれが、最良の選択。
「結衣を好きじゃないなんて、ウソだろ。」
確かにウソだ。奏多の真っ直ぐな目を見ていると、到底ウソなんかつけない。なら、
【分かった、束縛しないなら、付き合うよ。】
メールを打って、奏多に見えるように掲げる。
ウソがつけないなら、本当のことにすればいい。有言実行すればいい。ーー簡単なことだろ?
「じゃあ、今から結衣を諦める。」
きっと、奏多に優しくされているうちに結衣はまた奏多を好きになれるはずだからーー
「このメールが、俺が結衣を諦めたっていう証拠。」
結衣が奏多を好きになる努力をするように、俺も結衣を諦める努力をしなければいけない。きっと棗と付き合えば、棗を好きになれば、結衣はもう泣かなくていい。
「一番カッコいい諦め方で、大好きな女を諦めてやるよ。」
そう言いながら、送信ボタンをタッチする。
もう、後戻りはできない。俺はこれからは棗の彼氏なのだから、今度こそは本当に結衣を諦めなきゃいけない。
奏多は、結衣を幸せにするはずだから。
これが、俺が結衣にしてやれる最後の愛情表現だな。