あたし、猫かぶってます。

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　「…っ、」


　“一番カッコいい諦め方で、大好きな女を諦めてやるよ。”

　自分の言った言葉の重さが痛いくらいに胸にのしかかって来て。身動きができない感覚に、泣きたくなってくる。


　「あいつ、最後まで泣いてたな。」

　泣きたいのは俺の方だっていうのに、いつもあいつが泣くから、俺はいつだって抱き締める役で。


　でも、もう抱き締めることは出来ないからーー

　「もう泣くなよ、結衣。」


　結衣に届かない呟きを、隣で嫌な顔一つせずただ黙って聞いて、優しく笑いながら頷くーーー棗。



　「朔は偉いよ、これでみんなが幸せになれるね。」

　そう言いながら、俺を抱き締める棗。その言葉で、やっぱり俺の選択は間違っていなかったのだと、安堵感を覚える。


　「あたしが受け止めるから、もう大丈夫だよ。」


　ボロボロの心だと、好きじゃない女の言葉にすら頼りたくなってしまうものらしい。


　「………ぅ…っ、」

　彼女に抱き締められながら、彼女じゃない女のことを考えて泣くなんて、ダサ過ぎるだろ、俺。



　「ーーーー朔、」

　震える俺の身体を優しく包み込む棗。俯いて涙を流す俺の唇にそっと触れるだけのキスをして、



　「あたしが、忘れさせてあげるから。」

　優しい声で、そう言った。


　それが悪魔の囁きか、天使の囁きか。ーーその時の俺に考える余裕なんて、無かったんだ。