あたし、猫かぶってます。


 ーーーー遡ること、結衣と関わらないと決めた日。


 家に帰ってから、ずっと考えていた。

 俺が結衣を好きになって、結衣に気持ちを伝えたり、行動を示してからーー全部が壊れたということを。


 好きになってしまったことは仕方ないのかもしれないけれど、守りたかったはずの結衣の笑顔を、泣き顔にさせてしまったこと。

 罪悪感が、押し寄せる。誰かにこの気持ちを打ち明けてしまいたい。そう思っていたとき、


 ヴー、ヴー、ヴー、

 電話が鳴った。ーーー思わぬ、相手から。


 「もしもし。」


 『朔、元気だった?』


 「用件はなんだよ、ーーーー棗。」

 俺に電話をしたのは、幼なじみで元カノの棗だった。


 『え、朔、なんかあった?』

 幼なじみの棗が、俺の異変に気付けないわけが無くて、すぐに優しい声に変わる。


 「なにもねぇよ。」

 そんな棗に頼ってしまいそうになる自分を戒めて、そう答える俺。結衣のことは、棗には関係ねぇし。


 『ーーー今から、行く。』


 なんでもないって言ってんのに、いちいちうぜえよ。そう思うのに、

 棗が、罪悪感とか色んな感情に潰されそうな俺の気持ちを理解しているかのように真剣な声で、そう言うから。


 「…部屋来て。」

 ボロボロの俺は、寄りかかってしまったんだ。


 きっと俺は、誰かにこのどうしようもない罪悪感を打ち明けたかったからーー棗に助けを求めたんだ。


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