あたし、猫かぶってます。


 「奏多、ありがとう。」

 素のあたしを、初めて好きになってくれたのも奏多だった。そして、いつも辛いときに近くに居てくれたのも奏多。今、隣に居るのもーー奏多。


 あたしが奏多なら、自分よりプライド高そうな女なんか、絶対彼女にしたくないもん。

 「いつも、ありがとう。」


 笑顔で奏多にお礼を言う。久しぶりに笑ったような気がする。そして、久しぶりに誰かに感謝したような気がする。

 「っ、」


 そんなあたしを見て、奏多は一瞬悲しいような驚いたような微妙な顔でーー口を開いた。


 「結衣、キスしていい?」

 もちろん、断る理由なんか無い。あたしの彼氏は奏多で、奏多の彼女はあたしなんだから。拒む意味なんて無いからーーー


 「いい、よ。」

 そう言って、ゆっくりと目を閉じる。



 ーーーーちゅ、

 優しいリップ音と、触れるだけのキス。


 すごく大事にされてるんだ、って伝わってくるようなキス。奏多は本当に正直だよね。

 「結衣、好き。」


 ゆっくり唇を離した後、頬をピンクに染めた奏多が、あたしを見ながらそう言う。



 「結衣、大好きだよ。」

 あたしは、優しい奏多の笑顔を見て、意味も無く泣きたくなってーー奏多の胸に顔をうずめた。



 なんだ、この気持ち。


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