あたし、猫かぶってます。


 それ以来、早瀬はあたしにイヤミを言わなくなった。いや、むしろ優しくなった気がする。


 あまりに意味深なことを言うから一時的に早瀬を意識したりもしたけど、普通過ぎて逆に意識してる自分がバカバカしく思えた。

 「早瀬くん、結衣に優しくなったよね!」

 嬉しそうにあたしにそう話しかけるちぃちゃん。


 「あー、そうかなぁ?」

 あたしも早瀬の態度の変化は気持ち悪いと思う。あんなに嫌っていた相手に、そんな簡単に優しくなれるもんなの?


 「早瀬くん、結衣のこと好きなのかな?」


 「っ!?」

 ちぃちゃん。クラスの女子がこんなに居る中でその話題はさすがにマズいんじゃない?


 案の定、ちぃちゃんの言葉に怪訝そうに顔を歪める女子。早瀬は、クラスの王子だ。奏多とあたしはセットになっても何も言われないけど、早瀬は別。

 早瀬はみんなの早瀬だから、いくら可愛いからって、早瀬とあたしのセットは認められない。


 明日から、なにもないといいけど。なんて、呑気な考えは、翌日打ち砕かれることになる。


 ーー早瀬朔。全てはこのバカから始まった。


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