あたし、猫かぶってます。
「奏多、怒ってる?」
奏多があたしのことをなんでも分かっているのと同じで、あたしだって奏多のことをなんでも分かっていると言っても過言ではない。
「怒ってない。」
嘘だ。あたしが奏多が怒ってるのを見抜けない訳がないもん。笑っていても、なんか違う。いつものふんわりした笑顔じゃない。
「絶対怒ってる!」
「だから、怒ってないってば。」
ハハッと軽く笑って、急に真剣な顔になって、あたしを見る奏多。急に表情が変わるから、思わずドキリとしてしまった。
「超、怒ってる。」
「え?」
そう言いながら、あたしに近付いて、肩をグッと掴んだと思えば、
「っ、…んっ、!?」
無理やり、あたしに唇を重ねる奏多。
超怒っていて、キスして。こんな奏多知らない。どうしよう、なんで怒ってるのか分かんない。佐伯さと美の言葉が、離れない。
「…泣かせたいわけじゃない。」
そう言いながらあたしの目からポロポロと溢れ出す涙を拭いながら、器用にキスを繰り返す奏多。
ーーーちゅ、ちゅっ。
丁寧に、優しく。キスを繰り返す奏多。
ぼやけた視界だと奏多の表情は分かんなくて。キスを重ねるたびに頭も働かなくなっていく。
「結衣が分からない。」
唇を離して、奏多がそう言う。
「自己中なくせに、なんで俺の顔色伺うわけ?その癖、なんで避けるわけ。佐伯のことだって、今までの結衣なら流していたことでしょ?」
まるで、あたしの気持ちを見透かしているかのように、そう言う奏多。ドクドクと、心臓が鳴る。
《佐伯さん》が《佐伯》になっているとか。小さいことがいちいち気になってしまってしょうがない。
確かに、奏多が誰かと話しているとか、佐伯さと美の呼び方なんて前までのあたしなら気にかけなかった。
「俺のこと、好きになった?」
なんて笑いながら、あたしのほっぺたを撫でる。
「奏ーーー「って、冗談はここまでにして。」
「結衣は、なにを知ったの?」
確信をしているかのような言い方。
奏多に嘘はつけない。隠し事もできない。それは今始まったことじゃないけど、
今回は、絶対知られたくない。