あたし、猫かぶってます。
「とぼけなくていいから、答えて。」
ムキになっている奏多は、いつもみたいな余裕が無くて。奏多の言葉が嘘ではないのだと確信した。
「付き合ってたの…?」
呟いてみたら、なんとも虚しくなった。
「1年の時だけど、そのことじゃないの?」
付き合うとは、そういうことで。あたしの知らない奏多も、佐伯さと美はとっくの昔に知っていて、とっくの昔にキスもしていたんだろう。
「脅されてたりした?」
「…してないよ。」
奏多は、佐伯さと美が好きだったってこと?
「あたしが知っていたのは、佐伯さと美とキスしていたってことだけだよ。」
そう言えば、驚いたようにあたしを見る奏多。
本当に奏多ってさ、昔からバカだよね。内緒話とか、絶対バレるタイプだと思う。
「待って、結衣聞いて。」
きっと、奏多はあたしを傷付けたくなくて佐伯さと美とのことを黙ってくれていたんだよね。そして今も、あたしが不安にならないように弁解しようとしてくれているんだーー
奏多はあたしが好きなんだ、それはちゃんと分かってる。けど、
「昨日も佐伯さと美とキスしたの?」
ドロドロ、ドロドロ。このなんともいえない気持ちは止まってくれない。
佐伯さと美の気持ちを知っていて、あたしにまっすぐ家に帰ると言って佐伯さと美と会っていた奏多。
むかつく。気に入らない。
怒る資格ないとか、知らないし。むかつくものはむかつくんだもん。佐伯さと美にしか見せていない奏多とか、不愉快で仕方ない。それにーーー
「だから、結衣、聞いて。」
「あたし、佐伯さと美と間接キスしたの?」
奏多は佐伯さと美を受け入れたんでしょ?
悲しいくらい、泣きたいくらい、惨めな気持ちを殺して笑えば、奏多の顔が切なく歪んでーーー
「……んんっ、」
強引に、あたしの後頭部へ手を回した。
「黙って、俺の言い訳を聞いてよ。」
そう言って、全てを誤魔化すように、彼はまた。あたしに強引にキスをした。