あたし、猫かぶってます。


 早瀬朔が右って言ったら、たとえ真実が左だとしても、それは右なんだろう。


 返事をしないとすぐにキレるし、気に入らないとすぐに顔に出るし。なんていうか、一言で言うと性格がめちゃくちゃ悪い。


 それでも恵まれた容姿のおかげか、女子は恋愛対象として、男子は憧れの存在として、誰も彼に逆らおうとしない。まあ、逆らっても勝てないだろうけど。

 同じ顔が整っている人間でも、あたしと早瀬朔は全然違う。


 「早瀬くん、重いよ。」

 あの日以来、あたしに妙に懐いた早瀬朔。

 コミュニケーションの一種なのか、今もあたしの肩に頭を乗せて、上機嫌に鼻歌なんか歌っている。


 ただでさえ奏多と仲良いということもあって、女子にマークされやすいのに、早瀬朔の相手なんかしたら余計警戒されるんだけど。

 「早瀬くん、何考えてるの。」


 「結衣のこと。」

 ヤバい、厄介なヤツに懐かれた。


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