あたし、猫かぶってます。


 「早瀬…結衣さん、ですか?」

 好きな人が居ると言えばアッサリ了承してくれると思っていたけれど、佐伯さんは遠慮がちに俺にそう聞いた。クラスが違う結衣のこと、なんで知っているんだ。


 「なんで結衣のこと、知ってんの?」

 自然と冷たくなってしまう口調。


 女子は、苦手だ。


 みんな結衣のことを平気で傷付けて、結衣を窮屈な世界に閉じ込めてしまうから。結衣に関わる女子は、大抵利用しようとしているか、あるいは妬み。

 佐伯さんはそういうタイプじゃないけど、正直、俺を好きになって結衣に嫉妬するとか、そういう事態は避けたい。


 まあ、とりあえず佐伯さんのことは嫌いじゃないけれど、良い人だってちゃんと断定できないうちは

 迂闊に結衣に近付けてはいけない、そう思った。


 「秋村くん、可愛い幼なじみと毎朝登校してるって、何気に有名なんだよ?」

 そう言って、クスクスと笑う。バカにされているみたいで、ちょっとムカついた。


 「結衣のことは佐伯さんには関係無い。」

 そもそも、なんで俺は佐伯さんと居なければいけない?同じ委員会だし、話したいとは言ったけれど、四六時中ずっと一緒に行動する義務なんて無いじゃないか。


 「怒らないでよ、私は早瀬さんに憧れているだけだよ?」


 怒った様子の俺に慌ててフォローを入れる佐伯さん。その発言が、また俺を怒りへと誘う。結衣のことになるとブレーキが効かないのは昔からだ。


 「憧れているなんて、結衣の表面しか見ていないくせに言わないでよ。結衣の苦しみを知らないくせに、ヘラヘラしながらそう言うこと、言うな。」

 こんな俺を、よく結衣は優しいとか言うよね。


 本当の俺は優しくないし、結衣以外の人間のことなんてどうでもいいって、思っているんだよ?


 「…ごめんなさい、」

 真っ青になって謝る佐伯さんを見て、ハッとする。こんなの、結衣を助けれなかった自分への怒りを佐伯さんにぶつけているだけだ。



 「…俺も、ごめん。」

 そう言えば佐伯さんは一気に表情を明るくして、口を開いた。



 「良かった、嫌われてなくて。私、秋村くんに嫌われたら、独りぼっちなっちゃうもん。」

 その言葉に、ドクッと心臓が嫌な方に跳ねた。



 独りぼっちーーその言葉がずっと頭から離れなくて、結果を言えば俺が佐伯を突き放せない原因となってしまった。


 だってさ、誰だって独りは嫌だろ?


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