あたし、猫かぶってます。


 「最近奏多、ずっと佐伯と一緒だよな。」

 同じクラスの、わりと仲がいい男子がそう言う。そりゃあ、あれだけベッタリなら誰だって不思議に思うのだろうけど。


 「結衣に言わないでね。」

 結衣に佐伯さんと一緒のところを見られていないだけ奇跡に近い。クラスが離れているとはいえ、これだけベッタリならいつバレてもおかしくない。


 それでもーー結衣に知られたくなかった俺は口止めをする。


 「にしても早瀬ちゃん可愛いよな~、」

 ヘラッと笑いながら結衣は可愛いと何度も繰り返すバカ。結衣の性格を知らないから、当たり前っていえば当たり前の反応だけど。


 「ーー秋村くん、今日図書当番だよ。」

 男友達と世間話を楽しんでいれば、後ろからヒョッコリ現れる佐伯さん。クラスメートはもう気にかけもしない。


 むしろ、佐伯さんと付き合っているのかと聞かれるくらいだ。全力で否定しているけど。


 「ああ、先行ってて。」

 優しく笑いながらそう言えば、悲しそうな顔をする佐伯さん。


 「ひとりで行かなきゃ、だめ?」

 その言葉と表情に思わず漏れる溜め息。佐伯さんは本当に俺が居なければなにも出来ないんじゃないか、思わずそう思ってしまう。



 「…分かった、ちょっと待ってて。」

 きつく言いたくても、結局は佐伯さんに上手く誘導されて俺が折れてしまう。


 「いってらー。」

 笑顔で手を振る友達に軽く笑って図書室へ向かう。


 廊下を歩き始めると、聞き慣れた声が耳に入る。


 「え、奏多居ないのー?わかった、結衣が来たって言っておいてくれる?」

 ちょっと高めの声。教室の方を見なくても、分かる。


 「急ぎましょう、秋村くん。」


 「え?」


 「だって早瀬さんに見られたくないんでしょう?」

 なんてニコニコしながら言う佐伯さん。


 佐伯さんと誤解されたくないって意味で言った言葉が、まるで結衣と会いたくないと解釈されているような気がして。

 嫌な予感がした。


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