あたし、猫かぶってます。


 ーーーガラッ


 俺と佐伯さんしか居ない図書室。それもそのはず、普段図書室を貴重な放課後を使って利用する人はそうそう居ない。

 みんな部活に行ったり帰ったり。だから、ぶっちゃけ図書委員の八割はサボって帰る。利用者が居ないからバレないし。


 「秋村くん、暇だね。」


 「うん。」

 またか、と思いながら佐伯さんの言葉に反応する。


 佐伯さんとはただ、図書室のカウンターに座って、貸し出し時間終了まで話す。「暇だね」と言う言葉で、他愛無い話が毎回始まる。


 「なんか、ドキドキする。」

 何を?なんて、絶対聞かない。わりとそういう勘は鋭いから。佐伯さんが俺のこと、そういう対象に見ないか警戒していたし。


 「あ、結衣にメールしなきゃ、」

 なんとか佐伯さんに俺はその気が無いという意志を表したくて携帯を開く。委員会と知っている結衣はメールなんかしなくても毎回待っていてくれるのだけれど。


 嫌な予感がーー止まらない。



 告白して振るだけなら、別に構わない。だけれど佐伯さんは何かが普通の人らしくない。

 具体的に何、とは言えないのだけれど。何かが、厄介だから出来れば俺から離れて色んな人と関わって、俺以外と仲良くなって欲しい。


 まあ、佐伯さんがなかなかそうしてくれないから困っているんだけど。



 「奏多くん、」

 メールを打つ指が、思わず止まる。


 《秋村くん》から《奏多くん》に変わった違和感を、俺が気付かないはずが無くて。嫌な予感が、大きくなる。


 「奏多くんってなに、それ。」

 動揺を隠しながら佐伯さんに冷たい視線を送る。また涙目で俺を見て、罪悪感を感じさせようとするのかもしれないけれど、今の俺なら多分負けない。…気がする。



 「私を独りにしないで、私と付き合って。」


 「え?」

 なんで独りにしないで、から付き合ってになるんだよ。大体、佐伯さんにはもうあれこれ悪口を言う奴らは居ないんだし、俺に執着する意味が分からない。



 「あのさ、佐伯さん「ーーーー好き。」


 頬がうっすらピンク色の佐伯さんが、勇気を出して強気で文句を言おうとした俺の言葉を遮って


 ただ、一言そう言ってゆっくり俺に近付いて


 「んっ、」

 触れるだけのキスをした。



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