あたし、猫かぶってます。
「佐伯、おはよ。」
「奏多くん!!おはよ!!」
あれから一週間。佐伯さんと呼ぶのはよそよそしいからやめてくれと言われて、かと言って《さと美さん》なんてチキンな俺が異性の下の名前を呼べるはずなくてーー佐伯と呼び始めた。
あれから、特に変わったことはなくて。いつもみたいに委員会の仕事を一緒にしたり、休み時間を一緒に過ごしたり、話したり。
わりと今までと同じ毎日を、ただ少しだけ佐伯に気遣いながら過ごす日々を送っていた。
「佐伯、これ昨日のノート。」
ノートが写せない佐伯のために、その日のノートを分かりやすくまとめるのも俺の仕事。まあ、普段勉強しないからわりと丁度良い。
「ありがとう。」
そして、佐伯がニコニコしていると、なんだか安堵感を覚えるから、最近は佐伯を喜ばせることを進んでするようにしている。
「あ、今日の昼休みは結衣と約束しているんだけどーー」
そこまで言って、止まる俺の口。
「そっか…」
ヤバい、このお願いは多分《アウト》みたいだ。
「あー断っとくね。」
「ほんと!?」
俺がそう言えばパッと表情を変える佐伯にまた安堵感を覚える。
あれから、俺の中には佐伯に怪我させてしまったという罪悪感が消えてくれなくて。佐伯の悲しそうな表情や涙を見ると、図書室での出来事を思い出してしまう。
まあ、佐伯も悪いんだろうけど、女の子に怪我をさせて泣かせた俺が九割は悪い。
だからせめて。腕が治るまでは佐伯に優しくしてあげよう、佐伯の言うことを聞いてあげようと思ったんだ。
そこにもちろん、恋愛感情は無いけど。
「奏多くん、私、奏多くんが好きだな~」
「…ありがとう。」
ほら、こう言えば嬉しく笑う佐伯。
佐伯の腕が早く治りますようにと祈りながら、俺は今日も1日佐伯と過ごす。
結衣との登下校や貴重な週末の時間を奪われないだけマシだと思う。結衣に嫉妬とか、今のところ大丈夫みたいだし。
どちらかといえば、佐伯は俺と一緒に過ごす時間が少しでもあれば、結衣と仲良く登校していても何も言わない。
その点は、俺にとってはすごく嬉しかった。
毎日行動するのは精神力使うし、結構疲れるけれど、1ヶ月もすれば治るだろうと踏んで、俺は俺なりに頑張った。