あたし、猫かぶってます。
「あの、最初は本当に痛くて…」
涙目でしどろもどろに説明し始める佐伯。別に怒っていないのに、よほどヤバいと自分で自覚していたのだろう。今にも泣きそうだ。
「いつから?」
「え?」
「え、じゃなくて。いつから治ってたの。」
佐伯を感情的に責めるつもりは最初から無かった。多分怒りとかそういう感情より、驚きとか呆れとか、そっちの感情の方が強いんだ。
かと言って、騙されていましたはいそうですかって言えるほど俺も善人じゃないから、これくらい許してくれたっていいだろ?
「ぶつけて、最初は奏多くんに突き飛ばされたショックで涙が出て、痛くないのに、訳も分からず涙が出て。奏多くんが心配してくれて、嬉しくて。」
途切れ途切れにそう言いながらポタポタと涙を流す佐伯。騙されたのは俺なはずなのに、なんでこんなに罪悪感に襲われているんだろう。
てか、最初から痛くなかったのかよ。
「痛くなかったの?」
「痛かったら、おぶってもらう時点で騒いでたよ。」
なんて、自信あり気にそう言う佐伯。
なんていうか、本当に拍子抜け。気付かなかった俺もバカだけど、1ヶ月もよくもまあ演技できたよね。
「ノート、書かないから。」
「…うん。」
「体育、出なよ。」
「…はい。」
「治っていたならーー別れて。」
「……」
最後の言葉にだけ返事をしない佐伯。嫌な予感がする。
「別れたく、ない……。」
思わず、ずっと喉の奥で我慢していた溜め息が零れ出したのは、言うまでもない。