あたし、猫かぶってます。
「意味分かんない。」
「ごめんなさい。」
弱気な佐伯に強く言えない、そんな自分がたまらなく嫌になる。もっと泣かせてでも押し切らなきゃいけないのに、それができない。
「俺は佐伯を好きじゃないんだよ?」
そうだ。そもそもなんで佐伯は俺にこだわるんだ。俺はずば抜けてイケメンでもないし、結衣みたいに頭も良くない。
まあ、結衣が頭いいのは元から勉強が出来るのもあるけど、血の滲むような努力と、がり勉もドン引きするような勉強量をこなしているからなのだけれど。
とりあえず、俺にこだわる理由が分からない。
「いいの、私が好きなだけだから。」
なかなか引き下がらない佐伯。佐伯は悪い奴じゃない、分かってる。それは分かっているけど、タチが悪い。
いっそのこと俺を騙して開き直るくらいの悪女なら簡単に突き放せるのに、ちゃんと罪悪感を感じているからタチが悪い。
「ごめん、佐伯のこと、そういう対象に見れない。」
もし、図書委員になったのが俺じゃなかったら、佐伯は俺なんかを好きにならずに済んだのに。
叶わない恋なんかせずに済んだのに。
「奏多くーーー「呼ばないで。」
ごめん、佐伯。でも俺さ、佐伯じゃダメなんだよ。
「奏多って名前、呼ばないで。」
好きになるのも夢中になるのも。佐伯じゃなくて結衣じゃなきゃ、ダメなんだよ。
「かな…っ、」
「佐伯さん。」
傷付ける、分かっているけど、ちゃんと傷付けなきゃ、佐伯に失礼だ。
「別れて、ください。」
静かにそう言って頭を下げた俺を佐伯はどう思ったのだろう。分からないけど、ーー佐伯は静かに図書室を出た。
そして、次の日から佐伯は女の子と行動するようになって、図書委員会にも来なくなった。
後から知ったことだけれど、佐伯は俺と話す前から友達は普通に数人居たらしい。色々あったけれど、元通りになってよかった。純粋にそう思った。
ーーーもう二度と話すことはない、そう思っていた佐伯に、再び告白されたあの放課後までは。