あたし、猫かぶってます。
【秋村くんに相談があります。早急に話したいんです。結衣ちゃんのことです。】
開いたスマートフォンに表示されている文字。登録したものの一度もメールをしなかった佐伯からの初めてのメール。
【考えさせて。】
そう打ってから、再び結衣と歩き出す。
相談がある、それだけだったら嘘の可能性もあるしバッサリ断れる。だって、あの時の繰り返しをしていたら、結衣を傷付けることは目に見えてるし。
結衣を好きだというこの気持ちは中途半端じゃない、確かなモノだから。
佐伯のことでヤキモチ妬いて欲しいとか、朔くんより俺のことを考えて欲しいとか、そういうのじゃなくて。ーー純粋に大切にしたい、泣かせたくないんだ。
だから。
「真っ直ぐ帰りたい。」
今回は慎重に行動しよう。結衣のため、とか言って佐伯と絡んで結衣を悲しませたら、結衣のためも何も無いじゃん?
そう思って言った言葉に、結衣は焦ったように行きたいところはないかと聞いた。まるで俺の機嫌でも取るかのような結衣に、違和感を感じたんだ。
俺が結衣の機嫌を取ったりワガママを聞くのは昔からしょっちゅうあるけれど、結衣が俺の機嫌を気にするなんて、ほとんど無いから。
【結衣ちゃんのことです。】
佐伯の言葉が、気になった。
佐伯が結衣に何か言った?そう考えるのが一番合理的な気がした。だから結衣は佐伯と仲良くするのを良く思わないのではないか。
そう思って、佐伯のメールを開く。
【俺も聞きたいことがある。】
そう打って、送信。
結衣と別れて家に着いてからも頭の中から結衣の態度や違和感が消えなくてーーー早く真実が知りたいと思った。だから。
ーーピンポーン
いきなり訪れてきた佐伯を、怪しむこともなく部屋に入れてしまったんだ。
その選択が更に誤解を招く結果になってしまうのだけれど、この時の俺は必死で。周りなんて、見えていなかった。