あたし、猫かぶってます。
「結衣になに言ったの。」
部屋に入り次第、口から漏れた言葉。座って落ち着いて話すなんて無理で、自分でも切羽詰まっているんだなと自覚した。
「結衣ちゃんがそう言っていたんですか?」
やけにわざとらしい敬語とか、試すような瞳とか、佐伯の一つ一つが俺から余裕を奪っていく。
「言ってたら、佐伯に聞いてない。」
問題なのは、結衣が俺に言わなかったことだ。
今までの結衣なら、俺が結衣のことを優先するのが大前提で、優しくされることはあっても、気を遣うなんてことなかった。
「言ったの、言ってないの、どっち?」
「…言ってないです。」
「なら、もういい。帰って。」
佐伯に聞いてから思うのもバカみたいだけど、結衣に聞いた方がよっぽど利口だ。
「奏多くん…っ!!」
俺の言葉に、佐伯は泣きそうな顔をして俺を見る。
「なに。」
「結衣ちゃんと別れなくていいから、また、会いたい。」
「付き合ってた時、学校以外で会った覚えないけど。」
冷たい声でそう言うけど、佐伯は折れない。なんなんだよ、まじで。俺じゃなくてもいいじゃん別に。
「そんなに結衣ちゃんが、好き?」
「好き?そんなんじゃないよ。」
好き、この二文字だけじゃ全然足りないよね。
「何よりも、誰よりも、愛してんの。」
結衣が誰を好きになろうと、結衣が誰に愛されようと、俺は今も昔もずっと結衣を想うだろう。
「…っ、帰る。」
そう言って部屋を出て行く佐伯に溜め息が漏れた。
「…許さない。」
そして、佐伯の小さな呟きは、誰にも届くことなく俺の溜め息と共に消えていった。
俺は脱力感と倦怠感に襲われて、ベッドに倒れ込んで、そのまま眠りについた。