あたし、猫かぶってます。


 ーーーーーーーーー
 ーーーーーー



 「ーーーって訳で、キスどころか、ハグもしてないから。」

 話し終わった俺は結衣の顔を見ながら弁解をする。信じる信じないは結衣次第だと思うけど、結衣なら多分信じてくれる気がした。


 なんとなく、結衣は今日休むような気がしたから、結衣からメール来たときはやっぱりなと思ってしまった。結衣が佐伯との何かを知ってしまって、それで俺を避けているとーー

 どうせ中途半端知られているなら、自分で全部話した方がましだ。


 ずっと隠していて、出来れば言いたくなかったことだけれど、結衣が不安になったり悲しんだりするくらいなら、俺は全部打ち明ける。そう決意して全てを話した。

 正直、こんな形で知られるくらいなら、最初から結衣に話せば良かったと後悔もしたけれど、過去をどうのこうの言うより、この先どうやって結衣を守っていくか考える方が先だ。


 「ーーーい、結衣?」

 ボーッとしたような結衣が急にハッとして、ポロポロと涙を零した。


 「え、ちょ、結衣?」

 悲しそうな表情ではなく、本当に無意識に出たといった様子の彼女の涙に、俺が動揺しないわけがなくて。必死に背中をさすった。


 「奏多に、別れようって…言われるかと思った…」

 小さい声で自信無さそうに言う結衣は、なんだか結衣らしくなくて。ーーこれが朔くんが見てきた結衣なんだなって、思った。


 「別れないよ。」

 そう言えばコクンと頷いて涙を拭う結衣。たまらなくなってギュッと抱きしめた。本当、結衣が好き。


 「けど、佐伯には気をつけてね?」

 そう言えば結衣は小さく「うん」と返事をして、俺の背中に手を回した。


 自分の気持ちも、結衣の気持ちも偽りだらけの俺達をこうやって繋ぎ止めている唯一の絆はすごくすごく小さいモノで、ちっぽけだった。


 それでもお互いを求めてしまうのはーーきっと、結衣は俺と、俺は結衣と関わりすぎているからなのだと思う。

 そして、俺達は。


 「結衣、キスしてい?」


 「…うん。」

 今日も悲しいくらいに甘いキスをするんだ。



< 232 / 282 >

この作品をシェア

pagetop