あたし、猫かぶってます。


 「居た!?」


 「…体育館には居なかった、」

 ちょっと離れたところで聞こえる会話。ああ、もう。なんであたしを探してんの?


 「帰っちゃったのかな?」


 「や、でも。靴はあるから校舎内に居るんじゃーー」

 なんて良いながら、こちらに近付いているのか、足音が大きくなる。ドキドキしながら目をギュッと閉じる。


 指名手配、されているみたい。


 「結衣ちゃんに言わなきゃね、」

 なにを?なにをあたしに言わなきゃいけないの?もう学校来るなとか?いや、別に言われても行くけど、これ以上傷付きたくないな。


 言葉って咄嗟に出てきちゃったり、無意識に発していたりするけれど、言われた相手にとっては心強い味方にも、胸を抉るナイフにもなりかねないんだよ。

 もう、傷付きたくないし、逃げたい。


 「あ。」

 そんなことを考えていたら、廊下に居る女の子が、声を漏らす。


 「見つけ出す方法、思い付いた。」

 なんて言い出して。もちろんあたしはめちゃくちゃ動揺して、必死に息を殺して様子をうかがった。


 その時、


 ーーーーーー…♪♪


 マナーモードにし忘れていた携帯が、大音量でメロディーを奏でる。



 しまった、なんて思っていても、時すでに遅し。



 「結衣ちゃん…?」

 少しずつ少しずつ近付いてくる足音に、もはや祈っても無駄だと判断したあたしは、ハァと息を吐いて、それから覚悟を決めた。


 ああ、もう。知らないし。なに言われてもずっと笑っていよう。泣いて誤魔化すずるい奴とか、言わせないから。


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