あたし、猫かぶってます。


 「帰る、今すぐ戻ってやるし…っ」

 ポロポロと涙が流れる。声が可愛いって褒められるあたしだけれど、涙声だけはお世辞でも可愛いとは言えないな。


 「結衣ちゃん、早瀬くんが言った通り泣き虫だ。」


 「うっさい。泣かせたのはそっちじゃん!!」

 そう言えばクスクスと笑われてしまった。でも、愛想笑いでもバカにしたような笑いでも無い笑い声に、不思議と気持ちが軽くなった。


 大嫌いと、言われた。それをきっと、早瀬達が弁解してくれたんだ。早瀬の権力を使って仲良くしてって頼まれているのかもしれない。けど、

 だけれど、

 「最初から、本当の結衣ちゃんと話せていたら。もっともっと仲良くなれたかな?」

 この言葉は、紛れもなくあたしの為に発している言葉なんだ。


 「別に、今から仲良くなれば良くない?」

 なんて、多少ニヤケた顔を手でギュッとつまんで、らしくもない言葉を吐いてしまう。


 他人なんてどうでもいい、女の子の友情なんて生ハムより薄いって思っていた。そんなあたしが、こんな言葉を言っちゃうなんてね。



 「早く出てきてよ、結衣ちゃん。」

 嬉しそうな声に、なんだか照れくさくなったあたし。グッと、ロッカーの扉を押して、廊下に出ようとしたーー


 「…、あれ?」


 思わず、アホみたいな声が漏れてしまう。いや、ロッカーに入っている時点でアホなのかもしれないけれど。


 「なにしてんの、結衣ちゃん?」

 ケラケラと愉快に笑うクラスの女の子とは対称的に、あたしはどんどん血の気が引いていく。


 あたしは、か弱くもないし。それなりに一般的に握力もあるし。ムキムキではないけれど、決してヒョロヒョロでもない。ーーなのに、




 「扉が、開かないんだけど…」

 ギシリギシリと不気味に音を立てるだけで、びくともしない扉。普通に入れたのに、出れないってーーーありえないんですけど。


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